こんな世界があったらいいな
2010-05-28 23:53:49
(二十歳のときに書いたもの。俺のなりたかった伝説のヒーローとはこんなの。)
『こんな世界があったらいいな』
時の流れの何時か、白を基調にしたお城に、かっこいい王様とかわいいお妃様が住んでいました。
歳若い王様は天才で、お妃様はとても心の強い優しい方でした。
この二人の住むお城には、使用人や家来の類いは一切ありませんが、二人にとっては大きなお城の掃除やなんかは、この国に住む人達が手伝ってくれるのでした。
でも料理や裁縫はお妃様の仕事でした。
この国には税金も法律も、人間を縛るものは何もありませんでした。
良い人間ばかりなので、そんなものは必要なかったのです。
そしてみんな、強い人間でした。
ある日のこと、王様がいつものように本の山に埋もれていると、お妃様がお茶を持って来ました。
「あなた。何かあった?」
「明日、ドラゴン退治に出かける。」
「そう、、、、、、」
「死なないよ。」
「うん。お弁当作るね。」
「やっぱり、宝探しに行こう。一緒に。」
「一緒に?」
「今日のご飯はなに?」
「がんばって作る!」
「さて、お茶はやっぱり日本茶にかぎる。」
などとわけのわからないことを言いながら、王様は再び本の山に分け入って行くのでした。
さて、この国には税金がありません。
ゆえに食料は時給自足となるのですが、普段は近くの川でお妃様が魚を釣ります。
たまに王様が畑を耕す姿も見れます。
とにかくこの国は平和なんです。
ある日この国の王様が行方不明になったことがありました。
しかしお妃様は少しも慌てず、彼女専用の戦士の装束を身に着け、同行する仲間数人と共に王様を探す旅に出たのでした。
しかし王様が行方不明になったからって、お妃様以外は誰も心配する人はいませんでした。
人々は口々に言いました。
「あの人は不死身だから。」
だからみなが心配したのは王様ではなくお妃様のことだったのです。
お妃様は有能な仲間達のおかげで、王様が姿を消したのは南の洞窟だということを知りました。
この洞窟は深く、魔物の住む所だといわれ、誰も近づく者はいませんでした。
しかし王様は無謀にも、単身ろくな装備もせずに入ってゆき、みごとに道に迷っていたのです。
お妃様はこれを知るとさっそく、仲間達と共に洞窟に踏み込み、みごとな手並みで魔物を斬り伏せてゆくのでした。
そして王様を見つけると、一言。
「お弁当持ってきたの。」
流れる涙とは裏腹に笑顔で言うので、王様は「悪い、、、、、、」の一言以外何も言えなくなるのでした。
その後王様はお妃様の手料理で元気を取り戻し、お妃様と一緒に洞窟の魔物を一掃したのですが、お城に帰った王様を待っていたのは賞賛ではなく、お妃様を悲しませた事に対する非難でした。
肩身の狭い王様にお妃様は言うのでした。
「いつものことね。」
笑ってそういうお妃様に、王様は笑顔で応えるしかないのでした。
おわり。
0コメント