ギリシア神話時系列順
2010-05-23 00:48:10
ギリシア神話の本で、時系列順に書いたものを見たことがないので、面白いかなと思い書いてみました。
以下は四種類のギリシア・ローマ神話辞典の各項目を比較して、事件の古い順に並べ替えて要約したものです。
()内は他の要約の時と同じように私の感想と注釈です。
***
母ガイアと父ウラノスから生まれたクロノスは、父を倒して王位を奪いますが、同じように自分も子供達から王位を奪われるのではないかと恐れたクロノスは、妻レアとの間に子供が生まれると、すぐに飲み込んでしまいます。
レアはなんとかしてこの状況から逃れようと、ゼウスが生まれたときには、夫を欺いて石を飲ませ、赤子のゼウスをクレタ島にあるイデ山に隠して、牝山羊のアマルテイアに育てさせました。
こうして成長したゼウスは、クロノスが今まで飲み込んだ兄弟達を吐き出させ、父から王位を奪い、兄弟ハデスとポセイドンとで、世界を分割統治することにしました。
ゼウスは、クロノスとの戦いでクロノスに味方した巨人アトラスを罰し、アトラスに西の果てで天空を支えるように命じました。
そして、ゼウスは姉である美しいヘラを、正式に妻に迎えます。
大地の女神ガイアは結婚の祝いとして、ヘラに黄金の林檎を贈りました。
ヘラは天空を支えるアトラスの側に、その黄金の林檎を植え、火を吐く竜ラドンに黄金の林檎の木を守らせました。
その黄金の林檎の園ヘスペリスには、アトラスの娘たち(ヘスペリデス)が住んでいました。
ゼウスがアトラスの娘マイアを抱いたので、ヘルメスが生まれました。
クレタ島でゼウスを育てた牝山羊のアマルテイアが死ぬと、ゼウスはその乳母の栄光を記念するために、その皮を剥いで自分の盾に張り、その角をヘスペリスの黄金の林檎で満たしました。
この盾はアイギス(神盾)と呼ばれ、後にゼウスの娘アテナの所有となり、角はコルヌコピア(豊穣の角)と呼ばれ、黄金の林檎が尽きると、すぐに角に満たされる不思議な角でした。
当時人間は暗闇の中で惨めに暮らしていました。
ゼウスは人類が知恵を手に入れるのを恐れ、人類に火を与えることを禁止していました。
しかし人類を哀れんだアトラスの兄弟プロメテウスは、神々の世界から火を盗み出して、人類に贈りました。
こうして人類は文明を手に入れ、人類に天界の火を与えたプロメテウスは罰として、山頂の岩に鎖で縛り付けられ、二羽の禿げ鷹に永遠に内臓をついばまれるという、罰を受けることになりました。
プロメテウスは不死なので、はげ鷹に食べられた内臓は、次の日には綺麗に再生しました。
ゼウスは人類を弱らせるために、鍛冶の神ヘパイストスに命じて、美しい女パンドラを作らせました。
そして地上で暮らしていたプロメテウスの兄弟で、優しいエピメテウスの元に送り、二人を結婚させました。
しかしパンドラは、ヘルメスから贈られた、けっして開けてはいけないと言われた金の箱を、好奇心に負けて開けてしまいます。
すると、その中に封じられていた、人類を苦しめる為の全ての災いが、外に飛び出してしまいました。
(プロメテウスは、旧約聖書創世記の中で、神の目を欺いて、人類の祖先に知恵の木の実を食べさせた蛇と似ています。
創世記中で、神はエヴァに、知恵の木の実を食べるのを禁じます。
『「食べると必ず死んでしまうから」(創世記2.17)』食べてはいけないと教えました。
しかし知恵のある蛇は、エヴァに食べても死なないから食べてみるようにと誘惑しました。
エヴァは蛇の言葉を信じ、夫のアダムにも知恵の木の実を食べさせました。
人は元々寿命に限りがなかったのに、これにより寿命が発生したということではありません。
何故なら神は、この事件のあとにこう語るからです
『主なる神は言われた「人は我々の一人のように、善悪を知る者となった。今は、手を伸ばして命の木からも取って食べ、永遠に生きる者となるおそれがある」(創世記 3.22)』
こうしてアダムとエヴァは、エデンの東に追放されます。
また、プロメテウスの属する巨人族は、創世記やエノク書(1~2世紀頃成立)に登場する巨人族、ネフィリムにも似ています。
ネフィリムは人類に友好的で、神々の世界の知識を人類に与えた罪で、ノアの洪水で滅ぼされます。
北欧神話でも、巨人族と神々は対立しています。
古代インドでは、天界には4種類の火があり、それらは言語の比喩で、人類に与えられたのは、そのうちの一つだと信じられていました。
残りの3つは、天界に隠されたままだそうです。
ヨハネ福音書の、『初めに言葉ありき』や、創世記で人類が天にとどくバベルの塔を作れなくなるように、人類の言葉を混乱させて、互いの民族の言葉を通じなくさせた話を思い出します。
あとパンドラの箱って、浦島太郎の玉手箱と似ていますよね。)
人間の世界は、プロメテウスのおかげて文明化が進み、地上には多くの国が生まれました。
ある日アルゴスの王アクリシオスは、孫息子の手により死ぬという神託を受けます。
そこでアクリシオス王は、一人娘のダナエを青銅の塔に閉じ込めることにしました。
しかしゼウスは、美しい王女ダナエに恋をしました。
ゼウスは光に姿を変えて、塔に忍び込み、王女ダナエを抱きます。
アクリシオス王は、ダナエが男の子ペルセウスを生むと、母と子を木箱に閉じ込めて海に流しました。
しかし木箱はセリポス島に流れ着き、母子はセリポスの王宮で暮らすことになりました。
セリポスの王ポリュデクテスは、美しいダナエに結婚を迫りますが、ダナエはずっと拒んでいました。
ペルセウスが青年になると、ポリュデクテス王は、邪魔なペルセウスを遠ざけようとして、メドゥサの首を手に入れるように命じます。
ゼウスの子であるペルセウスに、アテナとヘルメスが助力します。
アテナからは鏡として使える黄金の盾を与えられ、メドゥサの顔を直接見ると石になると教えられます。
ヘルメスからは、メドゥサの首を斬るための剣と、タラリアという金の翼を持つサンダルを与えられます。
この靴を履くと、鳥よりも速く飛ぶことができました。
さらにヘルメスは、メドゥサの首を得る為には、自身が西の果て(黄金の林檎の木のある)ヘスペリスの園に預けてある、かぶると姿の消える兜と、メドゥサの首を入れるための、キビシスという金糸で織った袋が必要だと教えました。
ペルセウスは、西の果てでそれらのものを手に入れ、グライアイという名の、三人で一つの目を共有している老婆から、メドゥサの居場所を聞き出しました。
こうしてペルセウスは、ゴルゴン三姉妹のメドゥサの首を切り落とします。
このとき流れ出たメドゥサの血から、ペガサスという有翼の馬が生まれました。
ペルセウスはメドゥサの首を袋(キビシス)に入れ、空を飛んで、母の待つセリポス島に向かいます。
ペルセウスがエチオピアの上空まで来たとき、海辺の岩に鎖で繋がれた、王女アンドロメダを見つけます。
ペルセウスは海の怪物をメドゥサの首で石化して、生贄の王女アンドロメダを救いました。
アンドロメダはエチオピア王ケフェウスとその妻カシオペアの娘でした。
こうしてペルセウスは、アンドロメダと結婚しました。
ペルセウスはセリポス島に帰ると、その日に無理やり結婚させられようとしていた母を救い、花婿のポリュデクテス王と婚姻の客達を全て、メドゥサの首で石にしました。
ペルセウスはヘルメスに道具を返し、アテナはメドゥサの首を自身の持つアイギスと呼ばれる盾に取り付けました。
(アイギスとは、ゼウスが乳母である牝山羊アマルテイアの栄光を記念するために、死後その皮を張り、後にアテナに贈った盾です。)
ペルセウスが祖父のいるアルゴスに行くと、神託を恐れた王はラリッサに逃がれた後でした。
ペルセウスはその後、ラリッサの競技会に招かれますが、円盤投げの競技中に投げた円盤が、見物に来ていたアクリシオス王に偶然当たり、殺害してしまいます。
こうしてアクリシオス王の、孫に殺されるという神託が成就されます。
当時、アルゴス王アクリシオスの双子の兄弟プロイトスは、アルゴスの近くにティリュンスを建設し、ティリュンスの王になっていました。
ペルセウスは自分の殺した祖父の王国を継ぐのを恥じ、プロイトス王をアルゴスに迎え、プロイトス王からティリュンスを譲られて、ティリュンスの王になりました。
ペルセウスはその後、ミケーネを建設し、ミケーネの最初の王になります。
(これらアルゴル、ティリュンス、ミケーネの三つの国は、同族の国で、これらの文化をミケーネ文明と呼びます。このためティリュンスの王がミケーネの王と呼ばれることもあります。)
アルゴス王プロイトス(ペルセウスにティリュンスを譲った王)の妻は、コリント人のベレロポンという男を愛しました。
これに嫉妬したプロイトス王は、『この手紙を持参した者を殺すように』と書かれた手紙を持たせ、ベレロポンを妻の父であるリュキア王イオバテスの元に送りました。
しかし、イオバテス王は自分の手を汚すことをためらい、ベレロポンに怪物キマイラを退治するように命じました。
ベレロポンがアテナに祈ると、夢の中に現れたアテナは、キマイラを倒す為にペガサスを捕らえるように教えます。
目が覚めたベレロポンは、枕元に金の手綱があるのを見つけ、これを用いてペガサスを捕らえます。
ベレロポンはペガサスに乗り、鉛の塊をつけた槍先を、キマイラの口に突き入れます。
キマイラの炎は鉛を溶かし、溶けた鉛はキマイラの喉から内部に流れて行き、内部からこれを焼き殺すのに成功しました。
こうしてキマイラを退治したベレロポンに、リュキア王は娘ピロノエを与えました。
その後ベレロポンは尊大になり、怒ったゼウスに飛行中のペガサスの背から落とされて、ペガサスも奪われてしまいます。
ゼウスはペガサスを、芸術の女神ムーサたちに与えました。
ゼウスはフェニキアの王女エウロペに恋をしました。
ゼウスは妻であるヘラの目を盗み、白い牡牛に姿を変えてフェニキアに行き、エウロペを背に乗せると、自分の育ったクレタ島の、イデ山の洞窟に連れ去りました。
フェニキアの王子カドモスとその兄弟達は、父王の命により、エウロペ捜索のために諸国に散ります。
そしてエウロペを見つけるまでは、帰国を禁止とされました。
フェニキアの王子カドモスは、結局エウロペを見つけられず、神託を得てテーバイという国を建設することになりました。
カドモスはそのときに竜を退治します。
退治された竜の歯は、アテナの指示で地面に蒔かれ、その歯はスパルトイと呼ばれる戦士達を生じ、テーバイの貴族の祖先になりました。
ゼウスはクレタ島で、エウロペとの間に三人の息子、ミノス、ラダマンチュス、サルペドンをもうけます。
このエウロペという名が、ヨーロッパの語源になりました。
ゼウスはクレタ島を守らせるために、鍛冶の神ヘパイストスに命じて、自律して動く青銅の巨人タロスを作らせます。
この青銅の巨人の体内には血管があり、そこを流れる人工の血液は、くるぶしの所で一本の青銅のピンにより塞がれていました。
工匠ダイダロスは、初めはアテナイに住んでいました。
ダイダロスにはポリュカステという姉がおり、この姉には当時12歳になるタロス(青銅の巨人と同じ名ですね)という息子がいました。
このタロスは子供の頃に、コンパスとノコギリを発明しますが、それを妬んだダイダロスに殺害されてしまいます。
こうしてアテナイを追放されたダイダロスは、クレタ島に向かいました。
ミノスは成長してクレタ島の王になり、妻パシパエとの間には、二人の娘アリアドネ、パイドラと、二人の息子カトレウスとデウカリオンが生まれました。
海神ポセイドンはミノスを祝福して、波間から見事な白い牡牛を与えました。
しかしミノスはこの立派な牛を失うのを惜しみ、ポセイドンを称えるための生贄に使いませんでした。
激怒したポセイドンは、ミノスの妻パシパエに呪いをかけ、生贄用に贈った白い牡牛に欲情するようにしました。
パシパエはミノスの元で働いていた工匠ダイダロスに命じ、人工の牝牛を作らせました。
そしてその中に入り、白い牡牛への思いを遂げます。
こうして生まれたのが、怪物ミノタウロスでした。
ミノスはダイダロスに命じて迷宮ラビュリントスを作らせ、その中にミノタウロスとその母パシパエを閉じ込め、毎年アテナイから、ミノタウロスへの生贄を送らせることにしました。
小アジアにあるフリギアの王タンタロスは、神々の知恵を試そうと思い、自分の息子ペロプスを殺して料理を作り、神々に饗しました。
ゼウスはこれに怒り、タンタロスがハデスの国で永遠の罰を受けるようにしました。
それは水を飲もうとすると水位が下がり、果樹に手を伸ばすと果樹が逃げるという、飢えと渇きを与える罰でした。
ゼウスはペロプスの復活を命じましたが、デメテルだけがペロプスの肩の肉を食べてしまっていたので、足りない肩の部分には象牙が嵌め込まれました。
この後ペロプスはフリギアの王位を継ぎますが、小アジアのトロイアの勢力に圧され、ギリシアに移動します。
ギリシアに移動したペロプスは、エリス地方のピサの王女ヒッポダメイアに求婚しました。
しかしヒッポダメイアの父オイノマーオス王は、結婚の条件として、自分と戦車競技をして勝つことを要求します。
オイノマーオス王は、いつも娘の求婚者達と戦車競争をして、自分が勝つと求婚者を殺していました。
そこでペロプスは、オイノマーオス王の御者をしていたヘルメスの息子ミュルティロスに、王国の半分と王女ヒッポダメイアの共有とを条件に、競技中に車輪の外れるように、留め金に細工をさせました。
こうしてオイノマーオス王は、競技中の事故で死んでしまいます。
王位を得たペロプスは、ミュルティロスへの報酬を惜しみ、ミュルティロスを殺してしまいます。
この殺人でペロプスは、ミュルティロスの父ヘルメスから呪いを受けます。
このペロプスが支配した地域を、後世ペロポネソス半島と呼びます。
ペロプス王がフリギアを捨ててギリシアへ去ると、フリギアでは新しい王を誰にするかで、巫女の神託を求めました。
巫女は「新しい王は車に乗って来る」と答えました。
丁度そこに農夫ゴルディアスの牛車が通りかかります。
牛車にはゴルディアスの息子ミダスが乗っていたので、人々は神託を信じてミダスを王にしました。
(この車は記念として神殿に奉納され、アレクサンダー大王の頃まで存在していました。
この車にはゴルディアスが縛った誰にも解けない結び目があり、この結び目を解いたものが世界を手に入れると伝えられていました。
後世この地方を征服したアレクサンダー大王は、神殿に奉納されていたゴルディアスの車を見て、言い伝えられていたゴルディアスの結び目を剣で両断します。)
ゼウスによりクレタ島に連れ去られたエウロペの捜索に出かけ、神託によりテーバイを建国することになったカドモスは、アフロディテの娘ハルモニアを妻にしました。
二人には子供が生れ、竜の歯から生まれたスパルトイ達は、テーバイの貴族になりました。
そして子供たちが成長した頃、ゼウスは今度はカドモスの娘セメレを抱いて、葡萄酒の神ディオニュソスが生まれました。
カドモスの孫ペンテウス王は、ディオニュソスとその信徒達マイナデス(マイナス達)とを追放しようとします。
ペンテウスはディオニュソスと信徒達との狂乱(西洋中世の魔女達の狂乱の原型)を確かめるために、女装をして森に隠れていました。
ペンテウスが月の光の中で狂乱する信徒達を覗き見ると、自分の母アガウエと、二人の伯母までが参加しているのを見て愕然とします。
アガウエは息子とは知らず、女装したペンテウスを見つけて信徒達に知らせ、皆でペンテウスを引き裂きいて殺してしまいました。
朝になり狂乱から醒めたアガウエは、自分達が殺したのは息子だと知ります。
アガウエはペンテウスの埋葬がすむと、両親のカドモスとハルモニアと共にテーバイを去ります。
ペンテウスの従兄弟ラプダコスの息子ライオスは、エリス地方のペロプスの元に身を寄せていました。
戦車競技で王国を得たあのペロプスです。
ライオスはペロプスの息子クリュシッポスを好きになり、誘拐して犯します。
古代ギリシアでは同性への愛は普通でした。
クリュシッポスは自殺し、ライオスはペロプスから呪われてしまいます。
ライオスはテーバイに帰国して王位につき、ペンテウスの曾孫のイオカステを妻にしました。
ライオスは息子に殺されるという神託を受けていたので、生まれた赤子を捨てさせました。
この赤子はコリントス王の牛飼いに発見され、コリントス王の子として育てられます。
この赤子はまた、足をピンで貫かれて捨てられていたので、オイディプス(腫れた足)と名づけられました。
成長したオイデイプスは、『お前は父を殺して母を妻とするだろう』というデルポイの神託を受け、恐ろしさのあまりコリントスから逃れます。
その後オイディプスは、テーバイの王ライオスとは知らず、実の父とも知らずに、旅先で出会った無礼な男を殺してしまいます。
オイディプスがテーバイを旅していると、怪物スフィンクスと出会いました。
スフィンクスは旅人に謎を出し、答えられない旅人を殺していました。
「朝には四つ足、昼には二本足、夜には三つ足で歩くものは何か」というスフィンクスの問いに、オイディプスは「人間」と答えて正解し、スフィンクスは崖から身を投げて死んでしまいます。
ライオス亡きあと摂政として国を治めていたクレオンは、テーバイの災いである怪物スフィンクスを退治した者に、テーバイの王位と前王の妻だったイオカステを与えると布告していました。
こうしてオイディプスはテーバイの王位を得て、それとは知らずに実の母を妻にします。
オイデイプスはイオカステとの間に、二人の息子と二人の娘をもうけました。
しかしこの不義により、テーバイには深刻な疫病が発生します。
(王の不徳が国土に禍をもたらすという思想は、古代中国と同じですね。)
クレオンはデルポイに神託を求め、その後の関係者達の証言により、オイディプスが実の母イオカステを妻にしたことが明かされます。
イオカステは自殺し、オクディプスは狂乱して自分の目を潰しました。
オイディプスはその後、乞食同然に諸国を流浪し、優しい娘のアンティゴネがこれに付き添いました。
フリギアのミダス王は、葡萄酒の神ディオニュソスの教師であり、従者でもあったシレノスを歓待したので、ディオニュソスはそのお礼として、触れるもの全てを黄金に変える能力をミダスに与えました。
しかし食べ物も飲み物も全て黄金に変わってしまうので、困ったミダスは、パクトリス河の流れでこの能力を洗い落しました。
これがパクトリス河の砂金の由来になります。
ミダスはアポロンの竪琴と、パンの笛との音楽勝負の判定もしました。
パンは山羊の下半身と角を持つ姿で表わされ、恐怖と混乱をもたらす能力を持っていたので、パニックの語源になりました。
ミダスはアポロンよりもパンの方が笛が上手いと判定したため、アポロンから罰として、ロバの耳を与えられました。
ペルセウスとアンドロメダの息子である、ミケーネ王エレクトリュオンと、同じくペルセウスの子孫、タポス島のプテレラーオス王との間で、土地と牛をめぐる争いが起こりました。
その時、エレクトリュオンの甥アムピトリュオンが牛に投げた棍棒が、たまたま角に当たって跳ね返り、エレクトリュオン王に当たって殺してしまいます。
故意ではないのですが、アムピトリュオンは追放になり、テーバイに亡命することになりました。
殺されたエレクトリュオンの娘アルクメネが、それに付き添います。
アムピトリュオンはテーバイの摂政クレオンに頼まれて、国を荒らす牝狐の怪物を退治しました。
アルクメネの兄弟達は、タポスの軍に殺されていたので、アムピトリュオンが仇を討ってくれるなら、結婚してもいいと約束しました。
アムピトリュオンはタポス島に戦いに出ましたが、タポスのプテレラーオス王は不死でした。
不死の秘密は、頭に一本だけ生えた金髪にありました。
(やはり、ハゲ頭に一本だけなのでしょうか。)
プテレラーオス王の娘コマイトは、アムピトリュオンに恋をしていたので、父の髪の毛を抜き取りました。
アムピトリュオンはこうしてアルクメネとの約束を果たしますが、テーバイに帰る前夜、ゼウスがアムピトリュオンに化けて、アルクメネを抱いてしまいます。
こうしてアルクメネはゼウスの子ヘラクレスを生みます。
戦車競技で王国を手に入れたエリスのペロプス王の息子の中に、トロイゼン王になったピッテウスがいました。
アテナイの王アイゲウスは、なかなか子供が出来なかったので、デルポイに神託をあおぎました。
神託は、「帰宅するまで葡萄酒の皮袋を開けてはならない」というものでした。
アイゲウスは意味が分からず、帰路に友人のトロイゼン王ピッテウスの元に立ち寄り、相談をしました。
ピッテウスはこの神託の意味がわかったので、アイゲウスを葡萄酒で酔わせて泊まらせ、娘のアイトラを抱かせました。
アイゲウスは、大岩の下に自分の剣とサンダルを置き、もし子供が生まれてこの岩を持ち上げる力がついたら、岩の下のものを持ち、アテナイに来させるようにと伝えました。
こうしてテセウスが生まれます。
成長したヘラクレスは、テーバイのために戦います。
クレオンは自分の娘メガラを、妻としてヘラクレスに与えました。
ヘラクレス誕生のとき、ゼウスに欺かれた義父アムピトリュオンは戦乱の中で死に、母アルクメネは、当時テーバイに亡命していた、クレタ島のエウロペの息子ラダマンチュスを夫に迎えます。
ヘラクレスにはメガラとの間に三人の子供が生まれますが、ゼウスの妻ヘラの嫉妬により、ヘラから送られた狂気で、ヘラクレスは妻と子供達を殺してしまいます。
正気に戻ったヘラクレスは、デルポイの神託により、従兄弟でミケーネの王エウリュステスに仕えることになりました。
ペルセウスとアンドロメダの息子であった、ミケーネの王ステネロスの時代に、ステネロスはペロプスの息子アトレウスとテュエステスとを呼び寄せて、ミデアを治めさせていました。
エウリュステス王は、ミケーネのステネロス王と、エリスのペロプスの娘ニーキッペとの間に生まれた息子でしたが、同じくペルセウスの血筋で、ミケーネの王位継承権を持つヘラクレスの存在を、とても恐れていました。
そこで、ヘラクレスに12の難業を課すことにしました。
それはヘラクレスに西の果て、ヘスペリスの黄金の林檎を手に入れて来るように命じたり、アマゾンの女王ヒッポリュテの腰帯を奪わせたり、ポセイドンからクレタ島のミノスに送られた、白い牡牛を捕まえて来るようにと命じるものでした。
その後、こうした12の難行をこなして、ヘラクレスは自由になります。
ヘラクレスは小アジアのトロイアに立ち寄ったときに、トロイアの王女ヘシオネが、海の怪物の生贄に供されるのを救います。
この怪物の襲来は、トロイアのラオメドン王が、アポロンとポセイドンに頼んで作ってもらった城壁の、報酬を支払わなかったのが原因でした。
しかしラオメドン王は、助けてくれたヘラクレスにも報酬を支払わなかったので、ヘラクレスはトロイアを征服し、友であるサラミスの王テラモンに、トロイアの王女ヘシオネを与えました。
ラオメドン王とヘシオネの兄弟達は、このときヘラクレスに殺されました。
(小アジアだけでなく、ヘラクレスやディオニュソスが、アレクサンダー大王以前にインドまで遠征したと、アレクサンダー大王当時のギリシア文明圏の人々は信じていました。
ちなみに、ミケーネ文明圏の『海の民』と呼ばれるギリシア各民族の、小アジア及びパレスティ=カナン来襲は、『海の民』の一部が小アジアでフリギア人となり、パレスティナ=カナンでペリシテ人となったように、各地に大きな影響を及ぼしました。)
ペルセウスの孫のテュンダレオスは、兄ヒッポコオンにスパルタを追放されますが、ヘラクレスの助力を得てスパルタの王位につきます。
テュンダレオスの妻はアイトリアの王女レダで、カストルとポリュデウケスの双子の息子と、ヘレネとクリュタイムネストラという二人の娘の母です。
しかしゼウスが白鳥に化けて、既にレダを抱いていたので、そのうちの男女二人はゼウスの子でした。
イオルコスの王位継承権を持つイアソンは、王位を渡したくなかった叔父のペリアスから、コルキスの国にあるという金羊毛の探索を命じられます。
イアソンはアルゴー船に乗り込み、共に金羊毛を探す仲間を募りました。
そこには、トロイアを攻略して王女を奪ったヘラクレスとその友テラモン、スパルタの王子カストルとポリュデウケスの双子の兄弟、竪琴の名手オルフェウス、テラモンの兄弟で後にアキレウスの父になるペレウス、駿足の女狩人アタランテとその恋人メレアグロス、他40人程が集まりました。
(カストルは当時最強のレスラーであり、ポリュデウケスは当時最強のボクサーとして有名でした。
ポリュデウケスは鍛冶の神ヘパイストスを訪ね、両手首より先を鉄の拳と取り替えてもらったそうです。)
イアソン達は、航海の末にコルキスに辿り着きます。
コルキスの王女メディアは、イアソンを愛したために国を裏切り、金羊毛を手に入れた後、弟を殺して逃亡の時間を稼ぎます。
イアソン達がコルキスからの帰路、クレタ島で食料と水の補給に立ち寄ろうとすると、青銅の巨人タロスが岩を投げつけてきました。
メディアが魔法で青銅の巨人を眠らせ、上陸して巨人のくるぶしの青銅のピンを抜くと、人工の血液が流れ出し、タロスは二度と動かなくなります。
帰国して王位を手に入れたイアソンは、メディアを捨てて別の女性を妻にします。
イアソンに捨てられたメディアはアテナイに行き、アイゲウス王と結婚して子供を作ります。
そしてその頃、成長して父の剣とサンダルとを岩を持ち上げて手に入れたテセウスが、アテナイにやってきました。
メディアは自分の子供を王位につけようとして、テセウス暗殺を企てますが、失敗してアテナイを追放されます。
カリュドンの王子だったメレアグロスは、巨大な猪が国を荒らすので協力者を募りました。
集まったのは、メレアグロスの恋人だった駿足の女狩人アタランテをはじめ、カストルとポリュデウケス、ペレウス等アルゴー船の乗組員達でした。
結局、メレアグロスとアタランテが協力して猪を倒したので、メレアグロスは猪のすばらしい牙と毛皮とを、その場でアタランテに贈りました。
すると、母と仲の良い兄弟であった叔父達が、それを惜しんで女狩人のアタランテを侮辱しました。
メレアグロスは怒り、叔父達の首をその場で刎ねてしまいました。
メレアグロスの母アルタイアは、自分の仲の良い兄弟達が、自分の息子に殺されたのを恨み、メレアグロスがまだ赤ん坊の頃に、当時暖炉に燃えていた枝が燃え尽きれば息子が死ぬと、運命の女神から教えられて以来、火を消して隠しておいた枝を取り出して、燃やし尽くしてしまいました。
このとき、メレアグロスの身体からは炎が燃え上がり、苦しみながら死んでしまいました。
この様子を側で見守ることになったアタランテは、生涯結婚しないことを誓いました。
(物語の整合性をはかるために、テセウスが王位についた後にアルゴ船の冒険やカリュドンの猪退治に参加したという別伝や、アタランテがイアソンから、アルゴ船の冒険に女性一人だと問題だからと断られた別伝は採りませんでした。テセウスの王位につく時の障害が、アルゴ船後のメデイアだと辻褄が合わなくなるので。)
オルフェウスの妻アウリュディケは、毒蛇に咬まれて死んでしまいます。
アルゴ船の冒険にも参加したオルフェウスは、音楽の力で怪物ケルベロスを眠らせて冥界に下り、ハデスに妻を生き返らせてほしいと頼みました。
ハデスは妃のペルセポネから説得され、オルフェウスの妻を地上に連れ返ることを許可します。
ただし地上に辿り着くまでは、けっして振り返ってはいけないというのが条件でした。
オルフェウスは、地上まであと少しという所で後ろを振り向いて妻の姿を見てしまい、妻を生き返らせることが出来なくなります。
(日本神話ではイザナギの冥界下り、旧約聖書では塩の柱になったロトの妻、中国神話では桑の木に変じた伊尹の母の話が、振り向いてはいけないのに振り向いてしまい失敗する系統の話として思い出されます。)
オルフェウスはその後、葡萄酒の神ディオニュソスを敬わなかったので、先のテーバイの悲劇のように、信者のマイナデス(マイナス達)に八つ裂きにされて殺されてしまいます。
ヘラクレスは、カリュドンの王女で猪退治で死んだ、メレアグロスの妹デーイアネイラを妻にします。
あるとき、デーイアネイラがケンタウロス族のネッソスに犯されそうになり、ヘラクレスはヒュドラ(頭を切り落とすたびに倍の頭が生えてくるという毒蛇)の毒矢でネッソスを殺しました。
ネッソスは死に際して、デーイアネイラを欺き、自分の血は媚薬になるので、ヘラクレスの愛が冷めた時に使えと、デーイアネイラに言い残して死にます。
デーイアネイラはその言葉を信じ、ネッソスの血を取っておきました。
後にヘラクレスが別の女性に心を移したときに、デーイアネイラはヘラクレスの下着を、媚薬だと信じるネッソスの血(ヒュドラの毒の混ざった)に浸して、ヘラクレスの元に送りました。
ヘラクレスは疑いもせずにそれを身に着けると、全身にヒュドラの毒がまわって死にました。
それを知ったデーイアネイラも、あとを追って自殺します。
ヘラクレスは死に際して、友であるピロクテテスに、弓とヒュドラの毒矢を与えました。
(ピロクテテスは、後のトロイ戦争でこの弓を使い活躍します。)
アテナイで王位についたテセウスは、クレタ島から毎年ミノタウロスへの生贄を要求される状況を変えようと思い、生贄の男女七人ずつの合計14人の人員に紛れ込んで、クレタ島に向かう計画を父アイゲウスに話します。
アイゲウスは嘆き悲しみ、もしテセウスが生還したなら、帰国の船に白い帆を掲げ、もし死んだなら、帰国の船に黒い帆を張らせるように頼みました。
テセウスが生贄に紛れてクレタ島に着くと、その姿を見たミノス王の娘アリアドネは、テセウスを愛してしまい、迷宮を作ったダイダロスから、迷宮の脱出方法を聞き出します。
アリアドネはテセウスに会って糸玉を渡し、糸を解きながら迷宮を進むと帰れると教えました。
テセウスはアリアドネのおかげで、無事ミノタウロスを倒します。
しかしアテナイに向かう船旅の途中、テセウスは一緒について来たアリアドネを騙し、ナクソス島に置き去りにしました。
テセウスの船がアテナイに近づいたとき、テセウスは喜びに浮かれていたので、帆を張り変えるのを忘れていました。
海を眺めていたテセウスの父アイゲウスは、船に張られた黒い帆を見て、悲しみのあまり崖の上から海に飛び込んで命を絶ちます。
この海をアイゲウスにちなみ、エーゲ海と呼ぶようになりました。
(中世騎士伝説のトリスタンとイゾルデも、帆色の違いによる同じ結末です。)
その後アリアドネが置き去りにされたナクソス島に、葡萄酒の神ディオニュソスが通りかかり、アリアドネはディオニュソスの妻になりました。
工匠ダイダロスは、王女アリアドネにテセウスがラビュリュントスの迷宮から脱出する方法を教えたので、ミノス王の怒りを買い、幽閉されてしまいます。
そこでダイダロスは、息子のイカロスと共に、人工の翼でクレタ島から脱出することにしました。
でもイカロスは太陽に近づき過ぎたため、翼が溶けて墜落して死んでしまいます。
ダイダロスは無事海を渡り、シチリアのコカロス王の元で暮らすことになりました。
ダイダロスはそこで気に入られ、王女たちの協力を得て、シチリアまで追いかけてきたミノス王の入浴中に、熱湯を浴びせて殺すことに成功します。
ヘラクレスの死後、ヘラクレスに12の難行を課したミケーネの王エウリュステスは、王位継承権のあるヘラクレスの子供達が王位を望むのを恐れ、ヘラクレスの子供達を殺そうとします。
ヘラクレスの母アルクメネは、孫たちを連れてアテナイに亡命し、テセウスの助力を得てエウリュステスを倒しました。
ミケーネのエウリュステス王の死後、神託はエリスのペロプスの息子をミケーネの王にするようにと告げました。
(ペロプスとは不正な戦車競技で王国を手に入れたあのペロプスです。)
こうしてペロプスの息子アトレウスとテュエステスの兄弟は、ミケーネの王位を争うことになりました。
しかもアトレウスの妻は、テュエステスと浮気していました。
アトレウスはそんなテュエステスを恨み、和解の宴と称してテュエステスを招き、テュエステスの子供達を殺して料理したものを食べさせました、
テュエステスはそれが我が子だとは知らず、出された料理を喜んで食べつくします。
子供達と喜びを分かち合いたいと思ったテュエステスは、子供達を呼んでもらおうとしますが、アトレウスは子供達の残骸を見せました。
テュエステスは絶叫して、アトレウスを呪います。
こうしてテュエステスは追放され、ミケーネの王位はアトレウスが継ぐことになりました。
追放されたテュエステスは、復讐の方法を神託に問います。
しかし告げられた神託は、テュエステスが自分の娘との間に子供を作れば、復讐が成るというものでした。
テュエステスの娘ペロピアは、シキュオンでアテナの祭祀をしていました。
ペロピアが森にある川で衣服を脱いで、洗濯を始めたとき、テュエステスは顔を隠してペロピアと交わりました。
このときペロピアはテュエステスの剣を奪い、生まれてくる子供の父の手がかりとして、アテナの神殿に隠しました。
その後ミケーネでは飢饉が起こり、神託はテュエステスを連れ戻すように告げました。
アトレウスがテュエステスを探してシキュオンまで来た時に、テュエステスの娘ペロピアを見初めて妻にします。
ペロピアとテュエステスの子アイギストスは、アトレウスの子として育てられました。
(呪われたアトレウス家の物語は、ペロプスが戦車競技でエリス地方のピサの国を手に入れ、協力者のミュルテイロスを欺いて殺して以降、神託によりペロプスの息子アトレウスがミケーネの王位についた後、アトレウスの息子アガメムノン、そしてその息子オレステスの代まで続きます。
アガメムノンもオレステスも、ミケーネの王位につきますが、そこまでの悲劇を考えると、ミケーネの始祖ペルセウスの栄光も翳りますね。
有名なトロイ戦争の物語は、アトレウス家の悲劇の中の一部なので、それまでの経緯とその後の物語の帰着を知るには、今回の要約は丁度いいかもしれません。)
盲目のオイディプスの手を引き、乞食をしながら諸国を廻る娘アンティゴネは、アテナイ近郊のコロノスの森に辿り着きます。
テセウス王の許可を得て、オイディプスはここで安らぎを取り戻しながら死んでいきます。
父の死後アンティゴネがテーバイに帰ると、兄弟ポリュネイケスが隣国の助けを借りて、王権を得ようと攻め寄せ、それを応戦したもう一人の兄弟エテオクレスと相打ちになり、二人とも死んでしまいます。
摂政クレオンは、テーバイの正統はエテオクレスにあるとして立派に埋葬し、反逆者のポリュネイケスの死骸を葬ることを禁じました。
アンティゴネは住民達の見ている中で、ポリュネイケスの遺骸に砂をかけて、埋葬のかわりにします。
このためクレオンは彼女を閉じ込め、アンテイゴネは自殺してしまいます。
これにより、アンテイゴネを愛していたクレオンの一人息子ハイモンも自殺し、ハイモンの母も子供を失った悲しみの中で自殺しました。
クレオンは王位を継ぎ、孤独な生涯を送ったそうです。
アテナイ王テセウスはアマゾンと戦い、ヘラクレスが12の難業で腰帯を奪った、アマゾンの女王ヒッポリュテの姉妹の、アンティオペを妻にしました。
しかしアンティオペは、息子ヒッポリュトスを生むとすぐに亡くなります。
そこでテセウスは、アルゴ船で活躍したカストルとポリュデウケスの妹で、当時12歳の美貌のヘレネを、妻にするために誘拐しました。
ヘレネは当時、世界一の美貌といわれており、後にトロイ戦争の原因にもなります。
しかしこのときには、カストルとポリュデウケスによって救い出されます。
そこでテセウスは、クレタ島のミノタウロス退治の帰路、自分が捨てた王女アリアドネの姉妹の、パイドラを妻に迎えることにしました。
しかしパイドラは、前妻の息子のヒッポリュトスに恋をしてしまいます。
でもパイドラはヒッポリュトスに拒まれてしまい、口惜しい思いをしたパイドラは、ヒッポリュトスに犯されたと、テセウス王に嘘をつきます。
激怒したテセウス王は、息子のヒッポリュトスを殺し、後悔したパイドラは、自殺して果てます。
(こういう愛護の若タイプの話は世界中にあり、古代エジプトの物語の中にも、古代エジプトを舞台にした旧約聖書創世記の、ヨセフのエジプト生活の話の中にも登場します。)
アトレウスの子であるアガメムノンとメネラーオスの二人は、テュエステスの行方を神託にうかがうために向かったデルポイで、テュエステスを発見して連れ帰ります。
投獄されたテュエステスを殺すようにと、アトレウスは我が子として育てたアイギストスに命じます。
アイギストスは、母ペロピアから譲られていた剣を帯び、それとは知らずに実の父テュエステスを殺しに行きます。
しかしこの剣は、ペロピアが顔を隠した実の父と交わったときに、テュエステスから奪ってアテナ神殿に隠していたものでした。
テュエステスはその剣を見て、母を連れてくるようにと頼みました。
母ペロピアから剣の由来を聞くと、アイギストスは全てを悟り、自分が父の子を産んだと知ったペロピアは、その剣で自殺して果てます。
アイギストスはアトレウスを殺し、テュエステスを王位につけました。
(実の母イオカステと実の息子オイデイプスとの間に生れたアンティゴネ。
実の父テュエステスと実の娘ペロピアとの間に生れたアイギストス。
対照的ですね。)
ペロプスの孫で、アトレウスの二人の息子、アガメムノンとメネラーオスは、カストルとポリュデウケスの父であるスパルタの王テュンダレオスの元に身を寄せます。
テュンダレオス王は二人のために、テュエステスをミケーネから追放し、アガメムノンをミケーネの王位につけました。
テュンダレオス王の娘で、アテナイのテセウスに誘拐されて救い出されたヘレネの美貌は、ギリシア中から求婚者を呼び寄せます。
この求婚者の中には、イタケーの王オデュッセウスもいました。
ヘレネは、多くの求婚者の中からアトレウスの息子メネラーオスを選びます。
オデュッセウスが提案したので、今後ヘレネがさらわれることがあれば、ヘレネに求婚した全ての者は協力して、ヘレネを救い出す為に戦おうということになりました。
こうしてメネラーオスは、スパルタの王座を得ました。
(スパルタという国は、日本ではスパルタ教育の言葉で有名ですが、歴史時代に入ってからのスパルタの教育は、体育教育がなかなか厳しかったようです。
男女は強い戦士に育てるため、12歳からは全裸で訓練を行いました。)
ヘレネの姉妹クリュタイムネストラは、メネラーオスの兄で、ミケーネの王アガメムノンと結婚しました。
カリュドンの猪退治で恋人を失ったアタランテは、ギリシア一の駿足の持ち主でしたが、徒競走で自分が負けたら妻になるが、相手が負けたら殺すと宣言していました。
それにもかかわらず、アタランテの美しさに惹かれて、多くの挑戦者が現れては、命を落としました。
しかし挑戦者の一人メラニオンは、アフロディテの助力を得て、女神から黄金の林檎三個を渡されたので、アタランテに追いつかれそうにそうになると、それを投げてアトランテが拾っている間に距離を稼ぎました。
(日本神話では、イザナギが黄泉の追っ手から逃れるときに、同様のことをしていますね。)
こうしてメラニオンはアタランテを手に入れます。
美しい女神テティスは、プティア王ペレウスと結婚することになりました。
ペレウスはアルゴ船の冒険にも、カリュドンの猪退治にも参加していました。
神々はこれを祝福し、結婚の宴を用意しました。
でもこの宴には、不和の女神エリスだけが招待されていませんでした。
怒ったエリスは黄金の林檎を一つ持って現れ、「もっとも美しい者へ」という言葉とともに、林檎を残して立ち去りました。
ゼウスの妻ヘラと、金星の女神アフロディテと、戦いの女神アテナとが、自分がもっとも美しいと主張したので、争いが起こりました。
困ったゼウスはこの判断を、人間に任せることにしました。
審判者に選ばれたのは、パリスというトロイアの王子でした。
このテテュスとペレウスの結婚からは、アキレウスが生まれました。
テテュスはアキレウスを不死にするため、冥界にあるステュクス川に、赤子のアキレウスを浸しました。
しかし、アキレウスの足首を持って浸したために、掴んでいた踵の部分だけは不死になりませんでした。
パリスの母で、トロイアの王妃ヘカベーは、ある日不吉な夢を見ました。
自分の生んだ燃える木により、トロイアが焼け落ちる夢でした。
夢占い師は生まれた赤子が元凶になると夢解きをしたので、パリスは生まれてすぐにイーデー山に捨てられてしまいました。
しかし捨てられたパリスは、羊飼いに拾われて育てられます。
美しい青年に成長したパリスは、ニンフ(妖精)のオイノーネーを妻として、羊飼いをして暮らしていました。
その後パリスは、実はトロイアの王プリアモスの子であることが分かり、王宮に迎えられます。
そんなパリスの元に、黄金の不和の林檎がもたらされました。
三人の女神が一人ずつ現れ、賄賂を示します。
ヘラはもっとも美しい者に自分を選んでくれるなら、力を与えようと約束しました。
アテナは知恵を与えると約束しました。
アフロディテは、この世でもっとも美しい女を与えると約束しました。
そこでパリスは、アフロディテに黄金の林檎を渡しました。
アフロディテはこの世でもっとも美しい人間の女を与えるとして、パリスにギリシアのスパルタを訪れるように告げました。
パリスはスパルタの王宮に着くと、先のヘラクレスのトロイア遠征によって奪われていた、伯母のヘシオネを救い出すために来たと嘘をつき、メネラーオス王を油断させます。
そしてメネラーオスが国を留守にした隙に、王妃ヘレネを誘惑して、一緒にトロイアへ駆け落ちしました。
ヘレネ奪還には、先のオデュッセウスの提案(これからヘレネに何かあれば、過去の求婚者達が集まり、協力してヘレネを救い出そうではないか)もあり、ギリシア全土からは、多くの協力者が集まりました。
しかし、オデュッセウス自身は自分の提案を後悔していたので、アガメムノンとパラメデスがイタケーにやってきた時には、狂人のふりをして、牡牛とろばとをくびきに繋いで畑を耕していました。
しかし有能な軍略家であったエウボイアの王女パラメデスは、まだ幼かったオデュッセウスの息子テレマコスを、家畜の引く鋤の前に置きました。
オデュッセウスが慌てて息子を救い出すと、狂人の芝居がばれてしまいました。
(オデュッセウスはこのことでパラメデスを恨み、後にパラメデスが大量の軍資金を着服しているとアガメムノンに嘘の密告をし、パラメデスの陣営に金を詰めた袋をいくつも埋めておきました。
こうしてパラメデスは、投石による死刑に処せられます。)
トロイア遠征軍の指揮権は、メネラーオスの兄ミケーネの王アガメムノンと、ミノスの孫でクレタ島の王イドメネウスとで分担しました。
女神テティスは、息子アキレウスがトロイア遠征に参加しなくてもいいようにと、少女のように見えたアキレウスを女装させて、キュロス島のリュコメデス王の宮殿で、女たちの間に隠しました。
しかしオデュッセウスは計略を用い、持参の宝石類の中に武器を混ぜておき、宮殿の女たちがそれを観賞している時に、戦争の合図を響かせて、武器を手に取ったアキレウスの正体をあばきます。
ギリシアのトロイア遠征軍はこうして出発しますが、しかし風は味方せず、アウリスの港で足止めされてしまいます。
神託を問うと、アガメムノンの娘をアルテミスの生贄に捧げるようにと告げられました。
そこでアガメムノンは、アキレウスと娘のイピゲネイアとの婚礼を行うという嘘の手紙を、妻クリュタイムネストラに送ります。
クリュタイムネストラはこれを信じて喜び、娘に晴れ着をもたせて送り出しました。
こうしてイピゲネイアは生贄にされて殺されます。
トロイアへの航海の途中レムノス島に上陸した際、ピロクテテスは友であったヘラクレスの死に際に、ヘラクレスから譲られたヒュドラの毒矢で、誤って自分を傷つけてしまいます。
その傷は治ることはなく、身体からはひどい悪臭が起こりました。
そこでオデュッセウスは、ピロクテテスをレムノス島に捨てて行くことにしました。
艦隊がトロイアに到着して戦争が始まってから、既に十年の月日が流れました。
それでも決着の着かないまま、戦争は続いていました。
アキレウスは戦いに出るのを拒み、アキレウスの親友パトロクロスが、アキレウスの替わりにアキレウスの鎧を借りて戦いに出ました。
しかしトロイア最強の戦士である王子ヘクトルが、パトロクロスを殺しました。
アキレウスはそれに激怒して戦いに参加し、ヘクトルを殺します。
アキレウスはトロイアの援軍として戦闘に参加していた、アマゾンの女王ペンテシレイアを殺し、その美しさを見て死体に恋をします。
この戦争の元凶である王子パリスが、アキレウスの弱点である踵を弓で射て、アキレウスを殺しました。
(アキレス腱の由来です。)
アキレウスの死後、その見事な鎧はオデュッセウスとサラミスの王子大アイアスとの間で争われます。
(大アイアスの父は、ヘラクレスの友でアルゴ船の冒険にも参加したテラモンです。
テラモンは、ヘラクレスが前回のトロイア遠征のときに捕らえた王女をもらい、妻にしました。
テラモンの兄弟ペレウスの息子アキレウスと、大アイアスとは従兄弟同士になります。)
鎧は結局オデュッセウスに与えられ、大アイアスは狂乱のなかで諸将を殺した幻を見ます。
しかし、狂乱が冷めてそれらを見渡すと、死んでいたのは羊の群れだったので、彼は自分の行動が恐ろしくなり、自殺します。
(大アイアスは、同名の兵士アイアスと混同されないように、大アイアスと呼ばれます。
清水次郎長一家の大政小政みたいなものです。
小アイアスはトロイア陥落のさい、アテナ神殿でアテナ像にすがりつく、盲目の王女カサンドラを陵辱した卑劣な男として有名です。)
預言者カルカスが、トロイア陥落にはヘラクレスの弓が必要だという予言をします。
しかしヘラクレスの弓を持っていたのは、十年にわたるトロイア戦争の初期、ギリシアからトロイア遠征に向かう航海の途中で、オデュッセウスがレムノス島に置き去りにしたあのピロクテテスだけでした。
これには張本人であるオデュッセウスが迎えに行くことになりました。
ピロクテテスはレムノス島で一人洞窟に住み、十年の間癒えることのない傷に苦しみながら、狩をして生きながらえていました。
悔しかったのでしょうが、結局、ピロクテテスはトロイアの戦争に参加してくれることになりました。
医神アスクレピオスの息子ポダレイリオスによって治療を受けたピロクテテスは、ヒュドラの毒矢とヘラクレスの弓とで、この戦争の元凶パリスを射殺しました。
オデュッセウスの提案で、ギリシア軍は計略を用いて大きな木馬(トロイの木馬)を作り、その中に多くの戦士が隠れることにしました。
ギリシア軍は全軍撤退したと信じさせるために、口上役として残ったシノンは、これはトロイアにあるアテナ神殿への奉納物だと言いました。
トロイア人は騙されて、この計略の木馬を城壁の中にあるアテナ神殿に運び入れます。
そして深夜、隠れていた戦士たちは次々と町に出て行き、破壊の限りを尽くします。
わずか10歳のアキレウスの息子ネオプトレモスは、トロイアの王プリアモスを殺し、トロイア最強の戦士だったヘクトルの、幼い子供アステュアナクスをその母の腕から奪い取り、城壁から投げ落として殺します。
小アイアスは、トロイアの盲目の王女カサンドラをアテナ神殿で犯し、アテナから呪われます。
トロイアの王族アンキセスの息子アイネイアスは、老父を背負い幼い息子の手を引いて、トロイアを逃れました。
(アイネイアスはこの後イタリアに逃れて、ローマを建国します。)
こうしてトロイアは滅亡し、ギリシア軍は帰国して行きました。
スパルタのメネラーオスは、今回の戦争のもう一方の元凶であるヘレネを許し、この後仲睦まじく暮らしたそうです。
アキレウスの息子ネオプトレモスには、トロイアの王子ヘクトルの貞淑な妻、アンドロマケーが奴隷として与えられ、ネオプトレモスと三人の子を作ります。
(ヘクトルとアンドロマケーとの子供は、既に書いたようにトロイア陥落の際にネオプトレモスが殺しているので、アンドロマケーはどんな心境だったでしょう。
このときネオプトレモスまだ10歳です。)
盲目の王女カサンドラは、アガメムノンの奴隷としてギリシアに同行させられました。
十年にわたる戦争の末、やっとミケーネに帰国したアガメムノンは、その日の内に妻クリュタイムネストラとその情夫の手にかかり殺されてしまいます。
(クリュタイムネストラは、トロイ戦争の元凶になったヘレネの姉妹です。)
クリュタイムネストラは、高名なアキレウスと結婚させることに決めたからと、すぐに娘を送り出して欲しいというアガメムノンからの偽りの手紙により、喜んで娘を送り出したのに、呼び出された娘は航海の生贄にするために殺されたと知り、アガメムノンを恨んでいました。
そしてこの殺人に手を貸したクリュタイムネストラの情夫こそ、アガメムノンの叔父テュエステスが、復讐のために実の娘との間にもうけたアイギストスでした。
この夫殺しのさい、盲目のトロイアの王女カサンドラも、一緒に殺されてしまいます。
アガメムノンとクリュタイムネストラの娘エレクトラは、まだ幼なさの残る弟オレステスを連れ出して、ポキスにある伯父の宮廷に匿ってもらうことにしました。
母はオレステスも殺すつもりだったからです。
オレステスは以後、従兄弟のピュラデスと兄弟のようにして暮らします。
エレクトラは一人ミケーネの王宮に戻り、弟が成長して父の仇を討つときまで、母思いの娘を演じ続けました。
この事件の起きる前、ミケーネの王宮にいた頃のオレステスには、愛し合う恋人がいました。
それはトロイ戦争の元凶になった王妃ヘレネと、その夫であるスパルタの王メネラーオスとの間に生まれた王女ヘルミオネでした。
ヘルミオネが生まれて間もない頃に、ヘレネが国と家族を捨ててパリスと共にトロイアに行き、その後十年にわたる戦争が始まりました。
オレステスとヘルミオネは将来を誓い合う仲でしたが、父アガメムノンが母クリュタイムネストラと組んだ情夫アイギストスによって殺され、自身も命を狙われていたので、なかなか会いに行くことが出来ませんでした。
そしてそんな状況の中で、スパルタの王メネラーオスは、娘ヘルミオネとアキレウスの息子ネオプトレモスを結婚させてしまいます。
アガメムノンの息子オレステスは、成長して父の仇を討てる力をつけると、姉エレクトラの手引きにより、母クリュタイムネストラとその愛人アイギストスとを殺します。
その後オレステスは、復讐の女神によって正気を失いますが、アポロンの力を借りた姉エレクトラにより、正気を取り戻します。
正気を取り戻したオレステスは、アレオパゴスで神々の裁判を受けることになります。
(アレオパゴスとは、神話の時代、ポセイドンの息子ハリロティオスがアレスの娘を犯し、怒ったアレスがハリロティオスを殺したときに、ポセイドンとアレス双方の争いを裁くため、神々の裁判所として作られたものです。
これはアレスの丘という意味で、アテナイに置かれていました。)
オレステスはこの裁判で、アポロンとアテナの弁護を受けて無罪になります。
この裁判により、始祖ペロプス以来続いていた、アトレウス家の呪いは解かれます。
オレステスは母親殺しの罪から開放されると、まずスパルタに行き、戦争の原因となったヘレネを殺します。
次にオレステスは、自分から恋人を奪ったアキレウスの息子ネオプトレモスを殺します。
オレステスはヘルミオネを取り戻して結婚し、ミケーネの王座につきます。
(メネラーオスの死後には、スパルタの王も兼ねます。)
オレステスは姉のエレクトラが、ポキスの宮廷でオレステスと一緒に暮らした、従兄弟で親友のピュラデスと結婚したのでとても喜びます。
オデュッセウスはトロイアを出航してからさらに10年は、イタケーに帰り着くことが出来ませんでした。
途中オデュッセウスは様々な冒険をし、その過程で魔女キルケとの間に、子供ラティヌスを作ります。
ラティヌスはイタリアに住み、後に来るトロイア脱出の王族アイネイアスとその一行を歓迎し、アイネイアスに娘のラウィニアを与えました。
このアイネイアスとラウィニアの子孫から、ローマを建国したロムルスとレムスの双子が生まれます。
(ラウィニアの父ラティヌスから、ラテンという言葉が生まれました。)
オデュッセウスは途中パイアケス人の王女ナウシカに助けられ、10年の航海の後やっとイタケーに辿り着くと、家にはオデュッセウスを失った妻の財産を目当てに、求婚者達が財産を食い潰しながら居座っていることを知ります。
オデュッセウスの妻ペネロペは、義父ラエルテスの棺衣を織り上げるまでは結婚できないという口実を作り、夜になると昼間編んだ分をほどいていました。
オデュッセウスは息子テレマコスと協力して、求婚者達を殺し、その後幸せに暮らしたそうです。
アイネイアスの息子のアスカニウスの子シルヴィウスの息子ブルータスは、トロイア人を率いて、320余艘の船で新天地を求め、イギリスに到着しました。
当時はまだブリテンとは呼ばれておらず、アルビオンと呼ばれていたその島に、ブルータスはトロヤノヴァ(新しいトロヤ)という町を作りました。
それが時を経てトリノヴァントゥスになり、今はロンドンと呼ばれるそうです。
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